ね  や   の   む  つ  ご  と

閨の睦言









「おやすみなさい、悠季。愛していますよ」

「・・・・・うん、おやすみ」

 優しいささやきと一緒に圭のキスが落ちてくる。そうして、圭は自分の寝場所へと落ち着いて、ごそごそと身動きして居心地のよい場所を探していたと思うと、やがて穏やかな寝息が聞こえてきた。

 僕は彼の寝息を聞いて、ようやくほっと緊張を解いた。

 圭と一緒に暮らすようになって、ベッドを共にして、当然のようにセックスをするようになって・・・・・。

そうなると毎日のように僕たちがベッドに入ったとき、そのあと圭がどうするのか密かに緊張する。

悪い意味じゃない。ただ、彼の手が伸びてきて、僕に触れて僕を抱くんじゃないかと・・・・・構えなきゃならないんだ。

 そう、未だに僕は男が男に抱かれる事にこだわりがある。






 圭が相手だから僕はこの関係を受け入れた。圭だからこそ僕は『彼』を愛した。

 でも、僕は所詮僕で、常識や世間体を気にする気の小さい男なんだ。

 圭に抱かれる時、僕はいつもの僕とは違った生き物になる気がする。熱に浮かされたような時間を過ごし、恥ずかしくてたまらないようなことを口にして、彼とのセックスを堪能する。

 僕は楽しんでいるんだ。分かってる。

 だからこそ、朝になって理性が手綱を取り戻したとき、僕は羞恥にもだえることになる。

 でも、夜になってまた圭の手が伸びてきたら、昼間に悩んだり恥ずかしがったりしていたことなんて消えてしまう。僕の耳にささやいてくる圭の声があれば、もうなし崩しになってしまうんだ。








「・・・・・悠季?」

 眠っていたと思っていた圭がこちらを向いた。

「眠れないんですか?」

「い、いや。そんなことないよ。ちょうど眠気がさしてきたところだった」

「ああ、それは失礼しました。ですが・・・・・ねえ、悠季」

 ここちよいバリトンがぞくりと官能を呼び覚ます。

 圭の手が僕の方へと伸びてくる。愛しげに僕の髪をなでて、耳や首筋を愛撫してる。

「まだ眠っていなかったのなら、少し時間をいただけませんか?」

 耳元に吹き込まれてきたのは、いつものようにセックスへの誘い。

 圭の手が僕のからだをたどって降りていき、あちこちにある僕の中の官能に火を点火していく。

 パジャマの裾から手を入れられて、ふくらみなんてまったくない平らな胸を撫で回して、ぽつりと出ている乳首を指先で撫で回してつまんで、そのまま腹へと降りて行った手は、僕の薄い茂みを楽しげになぶっている。そして、いつの間にか目覚めてしまった僕の昂ぶりに手をからませていやおうなく僕を快楽へと呼び込んでいく。

僕が愛撫に気を取られている間にパジャマを脱がされてしまっていて、圭の目の前に貧弱なはだかをさらしていた。

ピローランプの乏しい明かりでも、圭のたくましいからだとはまったく違うのがよく分かる。

それに気がついてしまえば、もう恥ずかしさと欲情とが混ざった混乱に目が回りそうだった。

圭の唇が僕のそこかしこを舌でたどり、キスを降らせ、ちりっとした痛みとともにキスマークをつける。甘咬みをされたところから熱が高まっていくのがわかる。

いや、そんなことをしなくても僕のからだは彼に触れられていくだけで、反応を示しているんだ。

「悠季、――――――――― でしょう?」

 いつもは尊大なポーカーフェイス男で、セックスのことを口にすることなど考えられないというような端然とした貴公子でいるのに、ベッドの中ではどうしてこんな恥ずかしい言葉を口に出来るんだ!?

 僕は一瞬で赤面してしまうんだ!

「そんなことを言うなよっ!」

 僕があせって叱責すると、圭は含み笑いで応えてくれた。

「でも本当のことですよ。君も、そうしたいんでしょう?ねえ、悠季?」

 甘くて悪辣な誘惑は、どこか禁断の匂いを含む。

「そ、そんなこと考えたこともないよ!」

 うろたえて真っ赤になって、どもりながら言う言葉に信憑性はないだろうと思う。

「でも、ほら・・・・・」

 僕の下半身へと手を伸ばし、触れるか触れないかの感覚で僕の昂ぶりをなぶる。

すると僕の昂ぶりは僕の心以上に快感に素直で、すっかりと姿を変えてしまうんだ。

 僕は止めようとしても止まらないからだを持て余しながら、無意識に彼の愛撫をねだっている。

「・・・・・ね、ねえ、圭。そ、その・・・・・あの・・・・・」

「欲しいんでしたら、ちゃんと口でおっしゃい」

 僕が絶対に言えない事を知っていて、そうやってじらす。

「僕の口から言ってみましょうか?××××を×××××で×××××××して欲しいんでしょう?」

 そんなことっ!!

どうして圭は平然と口に出来るんだ!?












 悠季はいつも夜になると態度が微妙に変わる。

 バイオリンの練習をしているときはいつもどおりだ。夕食を一緒に摂っている時も同様。しかし、風呂に入って、さてベッドに行こうかという頃になると、どこかそわそわと落ち着かなくなる。

 僕を見る目がかすかにうるんでいるように思えるのは、僕の願望だけではないと思う。

 どこか誘っているような蠱惑に満ちたまなざし。

 僕は光に引き寄せられた蛾のように、ふらふらと彼のもとへと引き寄せられてしまう。


 思えばよくもこれだけの感じやすいからだを誰にも触れさせなかったものだとしみじみ思う。

 彼はもともといわゆるノーマルで、女性にプロポーズしている最中を僕が横からさらって来たようなものだが、優しげな美貌と性格のよさを兼ね備えている彼を、誰も手に入れようとしなかったというのは、僕にとっては奇跡にも思えるほどだ。

 はにかみやの彼がなかなか人と打ち解けなかったのが原因なのかもしれないが、最近の彼はむしろ社交的に振舞うように心がけているようだ。僕と同じ場所に立っていたいからと努力してくれているのだが、そうなると逆に心配でならない。いつどこの誰が目をつけてくるかと。

その意味では、彼の貞操をあやうくしているのは僕ということになるのかもしれない。

やれやれ。




 彼は素直に自分が僕に欲情しているとは認めようとはしない。

まだ彼の中で男性同士のセックスにこだわりがあるせいなのか、それとも潔癖でシャイである悠季が、今まで誰とも肌を合わせたことがなかったのは、セックス自体に抵抗があるからなのだろうか。

 もっとも、悠季は自分の事を淡白だと言っているが、わずかに触れるだけで匂い立つような色気をかもし出してくるのはどういうことか。

 だから、僕はそんな彼が見たくて、わざと煽るように彼の耳にみだらな言葉を吹き込む。その言葉が彼にはセックスを高めるスパイスになるのを知っているから。

「僕の口から言ってみましょうか?××××を×××××で×××××××して欲しいんでしょう?」

 一瞬にして悠季のからだが暁の色に染め上がる。ああ、なんて綺麗な色なんだろう。

 もっと見せてください。もっと僕の知らない君を見せて。もっとみだらに乱れている姿を・・・・・!



 
もっと!



 貝殻のような耳を舐めねぶり、首筋から鎖骨を舐め下ろすとすすり泣くような声で反応する。わきの下をキスするとたまらなげに頭を振って快感を訴える。背中から尾骨にかけて指や舌で降りていくと、昂ぶりの先からは切なげに露が滲む。

 すっかり僕の大きさに慣れた悠季のソコに僕の昂ぶりをぐっと押し込むと、いかにも待っていたというように僕を絶妙の締め付けて迎え入れてくれる。


 ――――― 目眩がするような快楽がそこにある。












 圭が僕の奥まで押し込んでいくと、そのみっしりとした圧迫感とたまらない感覚が僕を押し上げる。ゆっくりと引いていかれると、ソコが引きとめようとしてぎゅっと引き絞ってしまう。

「ねえ、悠季。声を聞かせてくれませんか?」

 圭が僕の耳元にささやいてくる。もうそれだけで感じてしまってぼうっとなっているけど、僕はなんとか首を横に振って、必死に唇からこぼれそうになっている甘いうめき声を押し殺していた。

「君の声が聞きたいのですよ」

 圭が、感じてならない声でねだってくるけど、それはとても恥ずかしい。

「・・・・・う・・・・・」

 ぎゅっと唇をかみ締めて、僕の中から零れ落ちそうなうめき声を必死に押し殺した。


 ――― ああ、そんなとこを触らないで!イってしまう・・・・・!


「悠季、ここがイイですか?それともこちらに触れてほしい?」


 ――― 僕に聞くなよっ!


「言わないのでしたらいつまでもこのままですよ。さあ、おっしゃい」


 圭は時々意地悪だ。僕がどうにも出来なくなっているのを知っていて、そんなふうにじらしてくる。


「・・・・・・・・・・ !」

 せっぱつまって、小さな声でささやいた。

「聞こえませんよ。悠季」

「だ、だから、そ、その・・・・・僕の・・・・・に触って・・・・・っ!」

「こちらですか?」

「ち、違う・・・・・!」

「では、ここ?」

「圭、じらさないでっ!」

 半ば泣きそうになりそうな声で僕は自分の願いを口にする。

 熱に浮かされ理性のたがが緩んできて、圭の望みのままに僕は口走っていた・・・・・らしい。記憶が曖昧になっているからだ。

 満足そうな圭の表情で、僕はまた少しばかり恥ずかしくなる。

 でも、圭が望むのなら、それほど嬉しそうな顔をしてくれるのなら・・・・・少しばかりの僕のプライドや恥ずかしさは棚上げにしておいてもいいのかな。












「け、圭、・・・・・けいっ・・・・・も、もう・・・・・!!」

 切羽詰った悠季の甘い声が僕の官能を刺激してくる!その上、熱い柔襞が僕の我慢を嘲笑うかのように誘惑して引き絞ってくる。

 もう少し、もう少し持ちこたえなくては・・・・・!

「ね、ねえ、悠季。声を聞かせてくれませんか?」

 僕は悠季が拒否するのを承知で、そんなことをねだってみた。

 案の定、彼は半ばとろけていながらも嫌々と頭を横に振って僕の願いをしりぞけた。

 でも、どうしても彼の口から僕とのセックスを堪能しているのを知りたくて、わざと彼をじらして追い詰める。

「僕を・・・・・突いて、かき回してイかせて・・・・・!」

「それだけですか?」

「・・・・・僕のここも触って・・・・・!」

 朦朧としながらも、僕の手を自分から熱く昂ぶっているモノへと誘導しながら、そう言ってささやいてくれた!

 もっとも同時にまなじりからはつうーっと涙がこぼれて落ちていたが。

 ――― じらしすぎましたか?申し訳ありません、悠季。

 けれど、涙をこぼしている悠季の表情は、とても綺麗で色めかしくて見とれてしまい、謝罪の言葉は口の中で消えてしまった。




「も、もう、だめだ。いきます・・・・・っ!」

「僕も・・・・・!」

 ぎゅっと締め付けた柔襞が、不随意の痙攣で僕に最後のひと絞りまで与えてくれた。

 悠季の荒い息づかいが僕の耳元に吹き付けられている。そのあえぎまじりのため息と、僕をくるんでいる熱い胎内がまた僕をそそのかしてくれるのだが・・・。これ以上のことは彼の負担になってしまう。

 いけない。彼の体調を考えれば毎日何回もするわけにはいかない。彼の睡眠時間をこれ以上削ればてきめんに体調を崩してしまうだろう。

 そう思いながらも、僕は彼に手を伸ばすことをやめられない。彼の甘美なからだをむさぼることを我慢できない・・・・・!

 そうして、僕は煽るだけ煽ってむさぼって、また彼をやつれさせてしまうのだ。



 君のからだは魅力的過ぎて、何度でも君を欲しくなる。君を抱けば抱くほど更に魅力が増していく。僕が君を欲するのは君のせいだ。

―――― などと、君に責任を転嫁するつもりはありません。

 これはあくまでも僕の欲望だ。

 君を愛し、君を抱きしめていたくてたまらない、恋に浮かれた哀れな男の。

 しかし、君でなければこれほどの執着と欲望を覚えないこともまた事実なんですよ、悠季。




「・・・・・よかった・・・・・?」

「ええ、とても素晴らしかったですよ、悠季。愛してますよ」

「ん・・・・・。僕も・・・・・愛してる」

 とろりとろれつのゆるんだ愛らしい口調で悠季はつぶやき、そのまま寝入ってしまった。僕は名残惜しく感じながら彼のからだから引き抜いて、彼を仰向けに寝かせた。


 騎乗位だったというわけではない。何度か体位を変えているうちに、最後に僕の上になる形になっただけのこと。

僕の上にまたがり、自分から腰を使って快感を追っている姿を見せてくれたわけではないのだから。

 いつかは快感に身を任せて思う存分快楽をむさぼっている悠季の姿を見たいものだと思っている。

 それは、どれほど美しくみだらに見えるだろうか。


 僕はその日が来るのを待ち望んでいる。彼が僕とのセックスを心から楽しんでくれている姿を。











ピロートークつまり睦言というよりは、言葉責め?(笑)

圭の誕生日か、二人の結婚記念日にアップしたかったのですが、遅れてしまい、ようやく掲載できました!

この頃はまだ悠季も慣れていなくて(笑)騎乗位は圭の願望だったはず。
で、お誕生日には必ず(笑)騎乗位を希望するんじゃないかなぁと・・・・・。(爆)

最初のコンセプトとしては、まだ圭とベッドを共にしたばかりでぎこちない
恋人同士のベッドインを描くことだったはずなんですが。
どこでどう間違ったんだろう??? (;^_^A





2008.8/ 23 up